武士の面影が残る龍野町 白壁の武家屋敷が立ち並ぶ 播磨の小京都へ
「播磨の小京都」として名高く知られる兵庫県・たつの市・龍野町。江戸の武家屋敷が立ち並ぶ、風情ある町への玄関口となる二本の橋。その橋の上で山・川・空というたつのの広大な自然を体感し、さあ、江戸の城下町へとまいりましょう。
この記事の目次
龍野古来の軒丸瓦 2つの円が重なり合うことであらわされるものとは
JR本竜野駅から、約15分まっすぐ西へ直進すると城下町への玄関口にたどり着きます。
そして揖保川に架かる、朱色で塗られた旭橋と、龍野橋。
旭橋の方が、景色を存分に楽しむことができます。
旭橋まで向かう途中、たつの市を象徴する赤とんぼが出迎えてくれます。
それは、日本国民にゆかりのある童謡「赤とんぼ」を作詞した三木露風の生まれ育った地であるからです。
赤とんぼに歓迎を受けた後は、橋の上で龍野の大自然を満喫しましょう。
橋を渡りきったその先に、素朴な瓦屋根と白壁に取り囲まれた江戸時代の城下町が待っていました。
中には老朽化している壁もありましたが、この壁の傷みが歴史の深さを物語っています。
しばらく歩くと、武家屋敷の屋根に決まって同じ文様が描かれた軒丸瓦(のきまるがわら)が用いられていることに気づきます。
この文様は、1672年から200年間、この地を治めた脇坂氏の家紋なのです。龍野藩脇坂家3代であり、播磨龍野藩初代藩主であるのが、脇坂安政。
彼が龍野の地に転封となりやってきた当時は、龍野城は破却され、荒れた状態でした。
「城、武家屋敷はことごとく田畑となっていた」といわれたほどであったそうです。
脇坂安政はこの状況を打破すべく、城の修復を開始。城下町の整備も幕府からの許可を得て実施し、いまのたつの市の原型を築き上げました。
他の地域にはなかった龍野独特の「淡口醤油」の生産も奨励し、龍野の発展に尽くしたのが、脇坂安政であったのです。
この彼の尽力が、後世にわたって「龍野の殿様」として慕われる脇坂氏の土台を築き上げたのです。
播磨の土地 城下町から見上げる位置にそびえたつ 黄金眠りし龍野城
播磨藩の城下町内を散策し、北の方向へ向かうと、龍野城の入り口にたどり着きました。
そしてここにもやはり、脇坂氏の文様が一つ一つの軒丸瓦に描かれています。
そのまま進んでいくと、龍野文化歴史資料館があります。
ここで、古代から近世にかけての龍野の歴史を知ることができます。歴史を学んだ後は龍野城へ。
中には無料で入ることができます。白と黒の2色のみで襖に描かれた龍は迫力を帯びています。
別の部屋は金一色に囲まれていました。
これは脇坂老中時代当時の豪華さを再現しているものだそうです。当時の脇坂氏の権威を目の当たりにし、当時の様子を想像することができます。
最後は、しころ坂を下ったところから龍野城を見上げましょう。龍野城を写真におさめるにはベストアングルなスポットです。
龍野城 所在地 : 兵庫県たつの市龍野町上霞城128-3
醤油資料館 所在地 : 兵庫県たつの市龍野町大手54-1
聚遠亭でほっと一息 醤油が自慢の龍野でしか味わえない珍しい和菓子
龍野城を出てしころ坂を下り、西の方向に進むと石段が見えます。その石段を上ると「聚遠亭」(しゅうえんてい)と書かれた標識があります。
龍野城から徒歩約10分です。
矢印が指す方向に歩くと、聚遠亭が姿を現します。心字池には鯉が気持ちよさげに泳いでいます。
心字池の深緑と、そこに浮かぶ昔からの造りで建てられた茶室(浮堂)が折り重なり、私たちの心に安らぎを取り戻させてくれます。聚遠亭には茶室(浮堂)の他に、楽庵と御涼所と、合わせて3つの建物があります。茶室(浮堂)は、安政年間(1854~1859)以降に移築されたと伝わっています。
池につきだした浮御堂風の外観が、庭園や池、杉垣などとよく調和しています。また、書院造を模した風雅な数寄屋風の建築物となっています。茶室(浮堂)は、土日に限りお茶会が催されています。
お茶会では、うすくち醤油が地場産業の1つであるたつの市の名物「醤油まんじゅう」とお抹茶をいただくことができます。
御涼所は藩主脇坂家が実際に使われていらっしゃった建物で、今でも床下の抜け穴が残っています。楽庵は1983年に東丸記念財団とヒガシマル醤油株式会社社長の篤志等によって完成しました。
竣工式には、千家千宗室家元が出席し、「気楽に和やかに楽しむ庵」と命名したものです。楽庵の奥にある扉を抜けると、木々や苔、そして静けさが温かく迎え入れ、包み込んでくれます。
聚遠亭 所在地:たつの市龍野町中霞城6
白壁や立派な軒丸瓦、鬼瓦を兼ね備える龍野の城下町ですが、
その風情ある古民家を活用して、町屋カフェがいくつか存在します。
わたしは今回、元々銀行であったというカフェ、「GALLERIA ART & TEA」におじゃましました。
そこには当時使われていた受け付け、戸棚、扇風機などがあり、テーブルやいすはオーナー選りすぐりのアンティークな素材のものでそろえてあり、
とても落ち着きのあるカフェです。ここで手作りスコーンをいただきました。ジャムと甘すぎないホイップクリームが、口の中でスコーンと調和し、コーヒーによく合います。
ほかにもオーナーが手懸ける絶品のメニューがそろっています。
店内をよく見ると、年季のある階段がありました。
オーナーに2階に上がってもよいかをお尋ねすると、店内は自由に歩くことができ、2階にも上がることができるとのことでした。
さっそく階段をあがると、2階には龍野の象徴である鶏籠山(けいろうさん)と揖保川というすばらしい景観を楽しむことのできるお座敷がありました。
また、お座敷のほかに、もう一つ別の部屋がありました。
足を踏み入れてみると、古くに使われていたような厳重に鍵のかかった大きな箱があります。
これは、当時の銀行で金庫として使われていたものだそうです。
その金庫を囲むようにして、普段見慣れない数えきれないほどの雑貨が展示・販売されています。
これらはすべて、オーナー選りすぐりの品々です。
和紙でつくられたはがき、フランスから直輸入された絵葉書、素朴なデザインの陶器。
ここで、普段手に入らないお土産を買うことができます。
龍野の象徴である鶏籠山と揖保川が織りなす美しい夕暮れ時。
オーナーの温かい手料理をいただき、2階の窓際から見える壮大な景色に旅で疲れた身体を癒してもらってはいかがでしょうか。
GALLERIA ART & TEA 所在地 : 兵庫県 たつの市 龍野町富永1439
URL: http://galleria-arts.wixsite.com/galleria-arts
脇坂安政が再建し、「播磨の小京都」として再び息を吹き返した龍野の城下町。すれ違いゆく町の人々は優しくあいさつをしてくださいます。自然と歴史、そして地域の人々の温かさを体いっぱいに感じることができます。町屋カフェを発掘する旅に出るのも楽しい街です。一味違う休日を、ここ龍野で過ごしてみませんか。