一直線に立ち並ぶ古き良き茶屋建築 金澤を感じる「主計町茶屋街」
石川県金沢にあるひがし茶屋街の少し手前、浅野川に架かる橋を渡る前に向こう側を見ると静かな茶屋町が軒を連ねています。
「主計町茶屋街」は江戸から続く河と緑と、茶屋の町並みが最もそのまま残される場所。
市民に愛され守られる、静かな茶屋町に眠るこころを探りにご案内いたします。
この記事の目次
河畔に寄り添う静かな茶屋町 金沢大人旅は主計町の町並み散歩にあり
金沢の三大茶屋街の一つ、主計町茶屋街は江戸の城下のありのままが残る茶屋街。
こちらへは金沢駅から橋場町方面に百万石通りを歩くこと約15分で到着します。
他の二つの茶屋街とは異なりお土産屋さんもカフェもない、落ち着いた、しっとりとした空間です。予約制の夜だけ空いているお茶屋や、ちょっと高級なお食事処が多く、ひがし茶屋街とはまた違う大人の町です。
浅野川に面して茶屋建築がずらりと並ぶ通りをゆったりと歩くのもよし。一本路地に入って、人がかろうじて通れるほどの道や、入り組んだ路地裏に現れる石段を渡って散策するのもよし。
遊郭独特のどこか隠微な空気は、作り出すことは決してできない、まさしく歴史が色濃く残る町です。
この「主計町」の由来は江戸時代、加賀藩士富田主計(とだかずえ)の邸宅があったことにありました。
昼の河畔沿いののんびり散歩も、夜の茶屋街から漏れる光や灯篭と三味線の音に浸る大人な歴訪も、どちらも魅力的。
表情を変える主計町は何度でもまち歩きを楽しめる、金沢城下のおすすめスポットです。
路地裏に金沢の文豪泉鏡花を辿るみち 懐かしくあたたかき石段巡り
独特の風情漂う主計町茶屋街は金沢を代表する文豪、泉鏡花がこよなく愛した故郷。
至る所に小説の舞台が見つかる、泉鏡花の「聖地巡礼」スポットでもあります。
浅野川沿いにある茶屋建築を楽しんだ後、それらの建築の間にある細い通路へ足を踏み入れてみましょう。
そんな細路地散策でまず見つかるのは「あかり坂」です。
町屋と町屋の間にあるこちらは、探しに来ないと見つからないような、暗い場所にひっそりと在る石段。
しかしながら訴えかけるような存在感は、普通の石段とはどこか違います。
こちらは暗い夜のなかに明かりをともすような美しい作品を書いた鏡花を偲んで名付けられたそうです。
上り坂の意(こころ)でもあるそうで、陽が差し込みあたりを照らすだけでなく、心にもポッと火を灯してくれるような、あたたかな雰囲気をかんじることができました。
さらに奥へと探索すること3分程で、主計町事務所と泉鏡花ギャラリーの向こうに「暗がり坂」を発見。
名前の通り、あかり坂に比べて心なしか暗い。
平安時代より金沢を見守る「金沢のまち発祥の地」とされる久保市乙剣宮(くぼいちおとつるぎぐう)へと続くその石段は神秘への入り口のようです。
こちらは小学生時代に泉鏡花が毎日通った通学路であったことでも知られ、どこか懐かしい雰囲気が漂います。
厳かな空気と懐かしさが共にある空間は、まさに金沢のこころを象徴するかのようでした。
細い細い路地裏まで、主計の町並みを満喫ください。
金沢城下 加賀百万石を今も受け継ぐ緑と蒼の原風景 隠れた絶景発見
城下の町並みが至る所に残る金沢には、お堀の跡もあちこちに点在しています。
もちろんこの主計町にも金沢城の名残は見つかります。
浅野川沿いに茶屋町を進んでいくと三分程で美しい庭園が見えてきます。
こちらは旧金沢城の内堀であった「西内惣構堀」を活かし「池泉回遊式庭園」をなぞらえ、金沢市制100周年記念事業の一環として整備された緑水苑。
「金沢」を誇りに思う市民のこころが詰まった、加賀百万石を守る公園は造り上げられた自然美とはまた違った受け継がれる歴史のありのままが感じられる、穏やかな地でした。
江戸時代より今もなお流れ続ける、水の音が優しく響き、のびのびと生い茂る美しき緑は自分の故郷を思い返してしまうような情景です。
ぜひ、お立ち寄りの際には目と耳で景色をお楽しみくださいね。
こちらの中の橋は表通りの中ほどにある、人だけが通れる一風変わった橋。
泉鏡花の小説の舞台でもあり、昔は橋を渡るごとに一文支払ったことから「一文橋」とも呼ばれます。
晴れた日には浅野川の水面に碧空と茶屋の街並みが映り、ハッとするほどに美しいです。
よろしければひがし茶屋街へはこちらを通って向かってくださいね。
主計町茶屋街には、まだ観光地化されていないからこその良さが詰まっています。
静かでたおやかな茶屋文化を受け継ぐこの地は、観光に来るというよりは、散歩を楽しむという言葉が似合います。
ゆっくりと、のんびりと、主計町に薫る400年前の風情をお楽しみください。