「個性ないものはあかん」有馬籠の想いと拘りを籠師 轡昭竹斉が語る
兵庫県神戸の有馬で大切に受け継がれている有馬籠(ありまかご)。
太閤秀吉の正室ねねや千利休をはじめ、多くの人に愛され約400年以上。そんな伝統工芸を守り続ける4代目轡 昭竹斉(くつわしょうちくさい)さん。
伝統を紡いできたその技術と想いの丈を語ってくださりました。
この記事の目次
一人前になるまで30年 有馬籠の技術習得にかかる年月と道のり
JR東海道本線の大阪駅から約1時間電車に乗り、神戸電鉄有馬線を乗り継ぎ、有馬温泉駅から歩くこと約10分。
今回有馬籠の歴史を伺いに訪ねたのは、有馬籠-ARIMAKAGOの工房です。
湯本坂を抜けて、落ち着いた通りを抜けると有馬籠本店があります。
本店には作業場があり、そこでは5代目籠師の轡豊さんが有馬籠を編んでいました。
本店の向かいに工房があります。
工房に一歩中に入ると、壁一面に無造作に置かれた有馬籠が目に飛び込んできます。
伝統竹工芸 有馬籠4代目の轡昭竹斉さんです。
本日はよろしくお願いします。
まずは轡昭竹斉さん自身についてお伺いします。
―有馬籠を作って何年になりますか?
1967年の4月からなので、かれこれ50年にはなります。
技術は、1年や2年じゃうまくなっていかない。長い積み重ねがあるからこそ、それなりの形になっていくんです。
まあ、私たちの場合は30年近く、20年を超えないとあかんわね。
というのも、有馬籠にはいろんな編み方、いろんなデザイン いろんな籠があります。
そういった無限に広がるデザインの籠を編む技術は、5年や10年では厳しいんです。
手間と根気のいる仕事です。
50年もしていると節々がでっぱっている手になってね。
いろんなところに力が入るから、何度もタコができてつぶれてを繰り返すんです。
神戸の奥座敷 有馬に訪れる湯治客の声から生まれた有馬籠のデザイン
―有馬籠には多種多様なデザインがありますね。―
私の後ろにあるのは全て有馬籠のサンプルです。
昔の先代がいろんな編み方をあみ出したし、私たちはそのデザインを使わせてもらっています。
そしてさらにそのデザインをアレンジして、また新しい籠のデザインを生み出しています。
有馬は主要駅からのアクセスが良く、大阪や京都などいろんなところからたくさんのお客様が来られます。
そんなお客様が求める籠は、生活に使える籠や箸、米あげざるとかなんです。
お客様の声を聞いて職人が作る。作るからお客様が買う。たくさん売れるからまた職人が作る、この繰り返しで籠のデザインが発展してきました。
第二次世界大戦のときに、打撃を受けて、なくなった職人さんもおられた。
生活環境も一変してしまいました。戦争に負けた当時は生活も変わりましたね。
そんなこんなで、有馬籠をつくっているのは、もうここだけになりました。
5代目の跡継ぎ問題はありませんでした。最初から継ぐつもりでいてくれました。
大変ですけども、無くはしたくないなと思うんです。
有馬籠を残すことは私たちだけの問題じゃない。竹を取ってくれる人、運び出してくれる人、色々な人の協力があってこその伝統なんです。
難しいんです。
綺麗なカーブを描く有馬籠は硬いけど粘り気がある六甲の竹から
―有馬籠は籠によって竹の種類が異なります。どのように使い分けていますか?―
有馬籠の竹は基本的に「真竹」という上質な竹を使用しています。
さらに言うと、この地で良質な竹が取れるからこそ、この産業が成り立っています。
例えば、六甲山があるでしょ、花崗岩でして空気がしみこみやすく、水分や養分が流れやすいんです。
流れやすいということは、その土地の竹に養分水分が少ない。少ないということは、大きな竹にはならないが、おかしな色にならず綺麗なつやみが出るんです。
籠を編む時には竹を曲げることが多いですよね。有馬の竹は良質で、ねばりが強くて、寒いから硬い。また色つやが良く、曲げるところが綺麗にカーブを描いてくれます。
そして自然な色合いも良い。5年10年たってもべっこうになる。私たちはそれを時代と呼んでます。
ただ竹にも問題はあってね。
竹はあるけれども、切ってくれる人、うまく枝を払ってくれる人、竹を運びだしてくれる人。そういった人たちが今はいなくなりつつあります。
だからね、この伝統文化を紡いでいきたいけど、厳しい現状もあるんです。
せやけど、やれる限りはもちろん続けていきます。わしも50年やってるけども、まだまだ修行中なんです。
「花を活かす」個性的な籠を 有馬籠が400年続いてきた秘密に迫る
―有馬籠の特徴を教えてください。―
実用的に良いものを作ることが、「良いもの」をつくることだと考えています。
技術ばかりで美しいものを作ることも大切やけども、本来の有馬籠というのは、お花を入れたときに「お花」が映えるようにデザインしています。
有馬籠は、「花を活かす」為に、敢えて完美なデザインにせず面白いつくりにし、花を際立たせます。
有馬籠が何百年も続いてきたのか、続くためには、中身がなかったらだめなんです。
例えば、綺麗でべっぴんさんで世間でいう完ぺきな人と、世間並でも愛想があって可愛らしい人と、嫁さんにするならどちらですか?
人に例えると好みがありますが、性質でいうと有馬籠は後者の嫁さんなんです。
わしは綺麗過ぎる美しい籠はつくりたくない。味があってなにか面白みのある籠にしたいと思っています。
そしたら、材料は太い竹よりも細い竹を使ったほうが、竹の表情が出たりする。
そうやって試行錯誤しながら有馬籠の特性が生まれるんです。
「個性のないものはあかん」
ちゅうことです。
これが有馬籠の特徴であり、大切にしていることです。
所在地 : 兵庫県神戸市北区有馬町1054
普段なかなか知れない職人の世界のお話は、いかがでいかがでしたか。
実際にお話を聞き、有馬籠のこだわりや、大切にしていることをお伝えしてきました。
50年かけても「まだ修行中の身」とおっしゃる昭竹斉さん。素敵な有馬籠にぜひ会いに有馬へお越しになってはいかがでしょうか。