人力車でぐるっと巡る! 倉敷の様々な時代を知るディープな歴史旅
どこにカメラをむけても絵になる岡山県倉敷市美観地区の景観は、全体で統一感を出しながら建物に様々な意匠がなされています。
また、江戸時代の建物と明治・大正時代の建物が調和するように存在しています。
大切に保存され美しさを放つこの町に秘めた様々な時代の物語を、人力車で巡り感じる歴史旅にでましょう。
この記事の目次
人力車旅の始まり 倉敷ならではの意匠から当時の生活を思い浮かべる
人力車で倉敷美観地区を巡る歴史旅。
今回は、本町・東町を中心に45分でゆったりと回って頂きました。
建物の意匠や物語と一緒にご紹介していきます。
JR倉敷駅南口から倉敷中央通りをまっすぐ歩くこと約10分。
倉敷美観地区の入口が見えてきます。
出発地点は、そのすぐ左手にある倉敷物語館の前。
車夫の方にお声掛けして、いざ出発です。
奈良萬の小路へ入ると、まず倉敷の建物ならではの意匠、「倉敷窓」と「倉敷格子」が見えました。
倉敷格子は、上下に通る太い格子の間に細くて短い格子が3本入っています。
外気や陽の光を通すため上の部分は太い格子のみで、下の部分は外からの視線を遮るため格子が密になるように設計されています。
倉敷窓は、単純な真四角ではなく外枠の隅が角のように突き出ています。
こうした窓は一般的には「角柄窓」と言われていて、そこに縦の骨組みが3本または5本と入っているのが特徴です。
実はこの倉敷窓、取り外しが出来るそうで驚きです!
当時お祭りなどがある際に、大きな屋敷がこの倉敷窓を外し、屏風を飾って見せていたといいます。
この建物の瓦紋は、丸で囲んだ中に3つの渦が巻いているような三つ巴の紋章が入っています。
かつて幕府の直轄地「天領地」だった倉敷は、武家が全くいない商人だらけの町でした。
武家の屋敷の瓦には家紋が入りますが、商人の屋敷は家紋を入れることが許されず、「火事になりませんように」と日除けの紋として三つ巴の紋章が入れられている商人の家が多いのだそうです。
本通り商店街へと進むと、約80年前の薬屋「林源十郎商店」があります。
1657年創業と長い歴史を持つこの建物は、2012年に改修され、今では1番人気の雑貨屋さんになっているそうです。
道中では時々「ひやさい」と呼ばれる細い道を見かけます。
日が当たらないところ、日が浅いところから「ひやさい」と付けられ、方言の一種です。
ここのひやさいは、ドラマのワンシーンにも使われていたそうです。
実際に建物の特長を見ながらその由来を知ることができるので、思わず「なるほど」と口にしてしまいます。
建物にはその当時の生活が表され、自分がここに住んでいたらと想像しながら町を楽しめました。
林源十郎商店 所在地 : 岡山県倉敷市阿知2丁目23-10
公式HP : http://www.genjuro.jp/
倉敷の隠れたパワースポット 希少な駒犬が迎える格式高き「誓願寺」
さて、続いて到着したのは本通り商店街の筋にある誓願寺(せいがんじ)です。
屋根の両端をよく見てみると、普通はお座りをしている駒犬がおしりをぴょこんとあげています。
これはとても珍しいものだそうで、俗説では、見ると運気が「しりあがる」と隠れたパワースポットになっているそうです。
誓願寺正面門構えの丸瓦を見てみると、天皇所縁の菊花紋が刻まれています。
また、門の横には何やら大きな壁があります。
岡山県独特のもので、この台形の厚みある壁は隠し蔵となっていて、飢饉の際に分け与えるための米俵や味噌が蓄えられていたといいます。
この壁に引かれた線は数が多いほど位が高いとされており、誓願寺に引かれた5本線は天皇様ゆかりの証であり、他にも出雲大社や太宰府天満宮などに引かれています。
本通り商店街を過ぎると、大正時代に建てられた「中国銀行倉敷本町支店(現中国銀行倉敷本町出張所)」があります。
大原美術館や有隣荘(ゆうりんそう)など、大原家関連の建物にも多く携わった建築家が設計したそうです。
色鮮やかで綺麗なステンドグラスのデザインは、真ん中の小判を波とコインが囲むという銀行ならではのデザインだと感じました。
大原家住宅へ向かう途中、倉敷の代表的な意匠、白漆喰(しっくい)の塗屋造りと「なまこ壁」がよく見えます。
岡山県は年間の8割が晴れという「晴れの国」なので、日の光を受けるとひびが入る漆喰は、通常40年に1度塗り替えるそうです。
瓦がねずみ色であったり、膨らんだ部分が海のなまこに似ているから、海の鼠(ねずみ)と書く「なまこ壁」といわれるようになったと由来は諸説あります。
なまこ壁にも様々な種類があり、写真1枚目と2枚目の右側が馬張り、2枚目の左側が芋張りで、3枚目の写真が四半張りのなまこ壁です。
車夫の方とお話しなければ知ることはできなかったと感じるものがたくさんあり、それぞれの建物について深く楽しめました。
誓願寺 所在地 : 岡山県倉敷市阿知2丁目25-36
中国銀行倉敷本町支店(現中国銀行倉敷本町出張所) 所在地 : 倉敷市本町3番1号
価値を生み続ける通り 倉敷の重要文化財から町並み保存の想いを巡る
まだまだ進んでいきましょう!
中国銀行倉敷本町支店を左手にした南北の路地は、左手に大正時代の銀行、左手奥に昭和時代に建てられた有隣荘、右手に明治時代の民家、右手奥に江戸時代の大原邸と、建てられた時代の違う4つの建物が同時に存在すると教えて頂きとても感動しました。
昭和時代に建てられた有隣荘は、江戸屋敷が寒すぎたので、病弱な妻のために大原孫三郎氏が建てた別荘です。
妻のために建てるはずが、当時天皇様が倉敷を尋ね有隣荘に泊まるとなったことから、有隣荘の瓦には釉薬(ゆうやく)が塗られた特別なものとなっています。
瓦紋には大原家住宅と同じ「向い松」が刻まれています。
中国銀行倉敷本町支店正面を右手にした大きな通りは、1件も空き家がないそうです。
これは代々受け継がれ、大切に家を守っているからこそある町並みなのだと気づきました。
左手の建物の前には、「犬矢来(いぬやらい)」というものがあり、「矢来」が人を防ぐという意味で、泥棒除けや、人が覗かないように、また犬が粗相しないようになどの目的があるそうです。
通りの左手に阿智神社があり、右手側には1909年創業の歴史ある酒造「森田酒造」があります。
瓦の下には、「杉玉」というものがぶら下げられています。
これは新種を作ったときの酒樽の木の葉で作られたもので、最初の葉の緑の色が変わるとお酒の飲み頃だと、「美味しいお酒がありますよ」という目印であったといいます。
本町を抜け東町に入る所に、1869年創業の約150年の歴史をもち、母屋が倉敷市指定重要文化財で、さらに今も現役の呉服屋「はしまや」があります。
敷地の中には、蔵を改装したカフェやギャラリー「夢空間はしまや」や、道の向かいにイタリアンレストランの「トラットリアはしまや」があります。
このように多くの人が利用できるようにすることで建物に価値を生み出し、屋敷を守り後世に残しているのだと感じました。
最後に倉敷川畔の中橋まで戻ってきました。
倉敷川畔左に連なるお店の屋根瓦の上を見てみると、なんと草が生えています!
これは爪の形をしていることから「爪蓮華」と呼ばれ、準絶滅危惧種に登録されています。
本来瓦の下に土を敷くことは許されていませんが、美観地区の景観を守り、そしてこの植物を守るためにも瓦が残されているのだそうです。
人力車に乗って巡った目線だからこそ感じられた看板の歴史ある様子や見渡す町並みは、特別な体験ができとても充実した時間となりました。
有隣荘 所在地 : 岡山県倉敷市中央1丁目3-18
森田酒造 所在地 : 岡山県倉敷市本町8-8
株式会社はしまや呉服店 所在地 : 倉敷市東町1-20
倉敷にはたくさんの建物の意匠があり、それがなされた背景や想いを知ることで倉敷というまちをより深く感じることができます。
私はこの人力車で巡った歴史旅を通して、倉敷にはまちや人を想う温かい空間があると感じました。
車夫の方々と楽しく話をしながら、倉敷に秘める魅力を見つけてみませんか。