有馬で千利休が愛した茶具 世界に一つの有馬籠-ARIMAKAGO
兵庫県神戸にある有馬温泉。
関西の奥座敷として太閤秀吉や千利休など、多くの偉人に愛された有馬で受け継がれてきた伝統工芸品「有馬籠(ありまかご)」。
今回はそんな有馬籠の歴史をひも解く旅に出かけてみましょう。
この記事の目次
1300年続く神戸の奥座敷 太閤秀吉とねねが愛した有馬の伝統工芸
JR東海道本線の大阪駅から約1時間電車に乗り、神戸電鉄有馬線を乗り継ぎ、有馬温泉駅で降りると温泉の独特の香りが広がっています。
目的の有馬籠本店までは、有馬温泉駅から徒歩約10分。
有馬川が流れる太閤橋を渡り、阪急バス有馬案内所から湯本坂を約5分歩いたところにあります。
この日は雨が降っていましたが、いたるところから湯気が上がる情景は、どこか暖かさすら感じました。
有馬籠本店に向かう道中には「ねねの橋」があります。
戦略結婚が多かった時代に恋愛結婚した豊臣秀吉とねね。
湯けむり広場には豊臣秀吉の像があり、秀吉と寧々は互いを見つめ合って建てられています。
有馬の名湯を気に入り9回も訪れたと言われている秀吉と正妻ねねが愛した温泉地は今もたくさんの人に愛されています。
湯本坂に入る手前には、有馬籠-ARIMAKAGOの支店があります。
お店には茶会で使用するような本格的な有馬籠のほか、お土産にしたい竹のしおりや、趣のある箸などが置いてありました。
帰りにお土産として買って帰ろうと思います。
湯本坂に入るとすぐに金の湯があり隣には足湯があります。
温泉には、環境省の指針により療養泉として指定している単純性温泉、二酸化炭素泉、炭酸水素塩泉、塩化物泉、硫酸塩泉、含鉄泉、硫黄泉、酸性泉、放射能泉の9つの主成分が含まれています。
有馬の泉質は、このうち硫黄泉と酸性泉を除く7つの成分が含まれていて、世界的にも珍しい混合成分の温泉です。
楽しそうに入る多くの旅人の隣を進み坂を進みます。
進んでいくと佃煮などのお土産屋や揚げたてコロッケがその場で食べれるお肉屋、食事処などが街道沿いに軒を並べ、風情ある温泉街を楽しめます。
さらに進むと、「有馬工房 有馬籠」の看板が目に入ってきます。
向かう道中には多くの看板があるので、迷わずにお店に向かうことができます。
あたたかみのある店舗と、向かいの工房が見えてきました。
ここが有馬籠の老舗「有馬籠-ARIMAKAGO」の本店です。
農村の生活用品だった有馬籠が 豊臣秀吉の茶会で千利休愛用の茶具へ
有馬工房 有馬籠の店内に入ると、さまざまな有馬籠が並んでいます。
繊細で崇高なつくりの有馬籠が並び、ひとつとして同じ籠がないことに驚きます。
「有馬籠」とはの商品名ではなく、有馬籠-ARIMAKAGOの職人が作る花入れ(花器)の総称になり、1991年に兵庫県の伝統的工芸品に指定されています。
4代目籠師の轡昭竹斉さん、5代目籠師の轡豊さんが現代も技術を受け継ぎ伝統を紡いでいます。
お店に入ると作業場で籠の取っ手を作っていた5代目籠師 轡豊さんが温かく迎えてくれました。
轡豊さんは柔和なお人柄で話しやすい雰囲気をつくってくださり、楽しく歴史について伺うことができました。
有馬籠の歴史は安土桃山時代まで遡ります。
本願寺の「顕如上人貝塚御座所日記(けんにょしょうにんかいづかござしょにっき)」に、1585年に有馬へ入湯しにきた湯治客、顕如上人光佐が有馬土産として、豊臣秀吉の正室ねねに有馬籠を贈ったことが記されていて、この時代に土産品となっていたことが伺えます。
では、なぜ有馬で「有馬籠」がうまれたのでしょうか。
それは六甲山(ろっこうさん)という良質な竹が取れる山があったからだと言われています。
産業や伝統はその地に住む人々の知恵と暮らしから生まれます。
六甲山の竹から、旅館や料亭で調理するお米を洗う籠、山の向こうでは漁師が魚を取る魚籠(びく)、近くの農村では野菜を入れる籠が作られていました。
また有馬は古来より関西の奥座敷として多くの偉人が訪れています。
豊臣秀吉が有馬でお茶会を開催し、そこに招かれた千利休がこの籠に着目し、茶道具として愛用しはじめました。
そこから茶室で使用される茶具として、有馬でしか手に入らない「有馬籠」として、日本の伝統工芸品となったのです。
轡豊さんも有馬籠の伝統を紡ぐ偉人の一人です。
轡豊さんは、有馬籠の伝統を受け継ぐつもりで大学も芸術の道に進みます。昭竹斎氏の跡継ぎとして毎日修行の日々だったそう。
この道に入って20年以上、いまでは有馬で唯一の有馬籠の伝統を紡ぐ職人の一人です。
有馬籠と表千家との絆 世界に一つだけのデザインで四季を楽しむ
かつて有馬には、有馬籠に限らず多くの籠屋がありましたが戦後に多くの籠店が閉店に追い込まれました。
そんな中で、茶道と深い付き合いがあった有馬籠は、今も尚職人の手で受け継がれています。
有馬籠は、現代でも表千家(千利休を祖とする千家の家督を継いだ千家流茶道の本家)に炭籠を納めています。
お茶会は、春夏秋冬の風情を味わいます。
そこに欠かせないのが有馬籠です。
お茶会の参加者は有馬籠に彩られたお花を見て、話に花を咲かせます。
もちろん籠も話題にのぼります。夏が来る頃に蝉の形をした籠をかけると、もうすぐセミが鳴く季節ですね、と話題にのぼり話がはずみます。
四季折々に様々な顔を見せる有馬籠は、デザインにも拘りがあります。
有馬籠の竹は主に「真竹」という白くてなめらかで上質な竹を使用しています。
そんな竹で作った有馬籠の代表的なデザインが「せせらぎ籠」です。
川の流れのせせらぎにちなみ、その名が付けられました。
茶道は季節の風情を重んじます。だからこそ籠の命名もとても大切なんだそうです。
400年以上続く伝統が現代まで消えずに紡がれているのは、有馬籠を愛する人がいるからです。
戦後も受け継がれてきた大切な日本の伝統工芸品は、手に取って初めて価値が伝わるのだと思いました。
所在地 : 兵庫県神戸市北区有馬町1054
定休日 : 水曜日
伝統工芸品「有馬籠」の歴史を巡る旅はいかがでしたか。
六甲の豊かな自然から生まれ、千利休との出会いから茶具になった有馬籠。
有馬籠の歴史に思いを馳せながら、実際に手に取って旅してみませんか。