世界遺産のまち大田市 石見銀山の繁栄を支えた銀山町をめぐる旅
大田市は島根県の日本海側のちょうど真ん中に位置するまち。世界遺産の石見銀山があるのがここ大田市です。
銀山だけでなく、銀山のためにできた町並みも含めてまるごと世界遺産であり、他の世界遺産とは一味も二味も違った魅力を感じることができます。
今回は、そんな世界遺産のまちの歴史をたどる旅をお届けします。
この記事の目次
世界遺産で重伝建 脈々と暮らしが続く 銀山町の魅力をお届け!
JR出雲市駅から電車で約40分のJR大田市駅、そこからバスで約25分移動すると銀山町の麓、大森代官所跡に到着します。
バスを降りればそこはもう世界遺産です。
自然と人の暮らしが隣り合わせ、知らないはずなのになつかしい、バス停から一歩踏み出せばそんな江戸の街並みが広がっています。
特徴は何といっても赤い屋根瓦。石州瓦(せきしゅうがわら)といって積雪や潮風にも強いことから日本海側に面したまちでよくみられます。
この町並み、おもしろいのは、町屋も商家も武家屋敷もごちゃ混ぜに並んでいるところです!身分なんて関係なく、同じ銀山町で生きる人どうし、心の距離も近かったのかも、と想像がふくらみます。
石見銀山遺跡は、ただ山を開いていくだけではなく、植林などで山の自然を保ちながら銀の採掘にあたっていたことが特に評価され、2007年7月に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として、国内では14 ヶ所目、鉱山遺跡としてはアジアで初めての世界遺産に登録されました。
石見銀山単体ではなく、「文化的景観」=”銀山で生きた人々の暮らしの在り方” までもが人類の遺産として世界に認められています。だからこそ「世界遺産のまち」なのです。
そしてこの世界遺産のまちが他の世界遺産と一味も二味も違うのは、実際に人が生活している生きたまちでもある、というところです!
まちを歩いていると世界遺産生まれ世界遺産育ちのちびっこが走り回っているのに出くわしたり、自転車に乗った買い物帰りの主婦とすれ違ったりします。日常空間と観光地が絶妙に溶け合った優しいまちです。
この世界遺産のまちは、ここで暮らす人々の努力で守られています。地元のガイドさんによれば、世界遺産登録は永遠ではないそうです。
一度登録されても、定期的に監査され、結果次第では世界遺産でなくなることもあるそうです。 文化的景観を守るために、現代に建てられたものも江戸の町並みにあわせた外観になっています。
郵便局も町屋、自販機には美しい細工の木製カバー、室外機も木製の格子で見事に隠されています。訪れた際にぜひ探してみてください。
町屋の斜め向かいに商家、そしてやはり住んでいる方がいらっしゃいます。
街灯もあえて古さを残しています。
この銀山町は川の両脇につくられています。そのため、橋がいくつもあるのですが、他では見られない銀山町ならではの橋がこちらです。
四角く切り出された石がアーチ型に組まれています。高い石工技術がなせる技、銀山の石工職人の腕の良さが垣間見えます。
この町並みを見るとき忘れてはならないのが、世界遺産であることと、さらに一部が伝統的建造物保存地区に指定されている、ということです。
人々の愛が詰まったまちはあったかい魅力にあふれています。
ゆったり歩いてまちを堪能するのも素敵ですが、二か所あるレンタサイクル店で電動自転車を借りるのも楽ちんで楽しいですよ。
所在地 :島根県大田市大森町
外から見るだけではわからない まるで迷路な大田市の大商家熊谷家
大森代官所跡のバス停から10分ほど歩くと、町屋とはちがった白い漆喰壁の建物が見えてきます。
国指定の重要文化財、熊谷家住宅です。高校生以上は500円で見学できます。江戸時代の大商家で、家紋のはいったのれんをくぐった先は広い広い土間になっています。
これが商家の特徴です。熊谷家住宅ではこの広い土間を利用して田儀屋カフェが営まれています。
熊谷家住宅は「家の女」たちが中心となって管理運営されています。「家の女」とは熊谷家住宅の管理運営のために集まった地元の奥様方のことで、
カフェも熊谷家住宅のガイドも「家の女」たちが切り盛りしています。
熊谷家住宅の中では、商家での暮らしが再現展示されています。江戸時代、この熊谷家は銀行の役割も果たしていたとのことで、当時どのように銀のやり取りがされていたのかを実際に使われていた道具ととも見ることができます。
また、区画ごとの重要な書類がいったん集められるのも熊谷家だったようで、書類を受け取って、それを代官所へ届けたことを証明する書類など展示されています。
書類を届けに来た各地の使者をもてなすのもこの熊谷家住宅の仕事でした。熊谷家住宅はいわば銀山町の顔でありました。
武家の方が輿で入ってくるためにつくられた門と庭。残っていた図面と地面の成分を分析して当時の様子を再現したそうです。
畳の間に突如現れた地下空間。なんと石を積んで作られた隠し防火蔵で深さ2m以上。普段は畳の下に隠していたそうです。 畳の下に秘密の部屋があるなんて、わくわくしませんか?
これは夏のしつらいで御簾がかけられています。クーラーもありませんが、たいへん涼しく、外の暑さがうそのようでした。
11月ごろには熊谷家住宅全体が冬のしつらいに総模様替えされます。冬にはお茶室の真ん中で茶釜が湧いているような趣のある様子になるとのことです。
使われていた当時そのままに復元された台所。とても広かったです。 事前に申し込めば、ごはん炊き体験もできます。
実際に使われていた食器と残っていたレシピをもとに「家の女」たちが手作りした食品サンプルが並びます。本物の食材により近づけるためにさまざまな素材で創意工夫してつくられているので、ぜひみてみてください。
ちなみにしいたけは、昔使われていた皮製の座布団の皮を切り取って作ったとのことです。
元々、物置だった二階のスペースは企画展示スペースとなっています。訪れた際はパンに関する企画展示が行われていたのですが、とてもかわいらしかったです。
この再現された給食、牛乳パックからなにから「家の女」たちの手作りです。とても凝っていました。
熊谷家住宅 所在地 : 島根県大田市大森町ハ63番地
公式URL : 熊谷家住宅
大田市の武家屋敷の秘密 隠し機能満載?!驚きの旧河島家にお宅訪問
熊谷家住宅から徒歩約8分で旧河島家に到着します。
河島家は、1610年銀山奉行大久保石見守に召抱えられて以来、銀山附地役人を代々勤めました。
こちらは武家屋敷です。武家屋敷の特徴は門があって前庭があって玄関という造りです。
この屋敷は、屋敷配置や主屋の間取りなど銀山附役人の屋敷の特長をよく顕していることから、1993年に大田市指定史跡になりました。
旧河島家は高校生以上が200円で見学できます。入ってすぐのところには武家の食事が再現されています。
これも「家の女」お手製の食品サンプルです。
注目はこの押し入れです!開けてみると
隠し階段がありました!!外観からも二階があるとはわからないようになっているので完全に秘密の部屋です。
その昔には家から脱出するための秘密の通路もあったそうです。
一揆などなかった銀山町の武家屋敷にどうして秘密の家や通路が必要だったのか気になります。
隠し階段をあがった先には甲冑などの展示があります。
跳ね上げのはしごがなければ登れない女中部屋が残っています。何人の女中がここで生活していたのでしょうか、当時の生活がしのばれます。
現在では「仕舞う」というコンセプトで銀山町中かえあ集められた品々がパズルのようにみっちりと収められています。
圧巻の収納力を持った女中部屋に驚きました。
所在地 :島根県大田市大森町ハ118番地1
公式URL : 旧河島家
町人、商人、武士、いろいろな人の生活が自然とともに隣り合わせで営まれてきたまち、そしてこのまちは世界遺産です。
そしてこのまちには現在もさまざまな人々の生活が息づき、その人々によって江戸や明治の町並みが脈々と受け継がれています。
そんな時間を超えた人の繋がりが織りなす歴史的なまち、大田市大森の銀山町。やさしくて、あったかい、そんな雰囲気がそこにはありました。