生まれかわりの旅の出発点「羽黒山」 歴史を辿る五重塔までの旅路
山形県中央に位置し、修験道として古くから信仰を集めてきた鶴岡市の出羽三山(でわさんざん)。
羽黒山(はぐろさん)・月山(がっさん)・湯殿山(ゆどのさん)の総称で、これら3つの山を巡ることは、死と再生を巡る「生まれかわりの旅」と言われ、1400年余にわたり修験の地として信仰を集めています。
今回は、生まれかわりの旅の出発点で、現世の幸せを祈る山といわれる「羽黒山」を旅してみましょう。
この記事の目次
出羽三山に伝わる羽黒修験道 隋神門を抜けた先に広がる景色とは
江戸時代に広まった羽黒修験道の行場であり中枢であったのが、この羽黒山です。標高は414mです。
修験道とは、自然信仰に仏教や密教が混じり生まれた日本独特の山岳信仰のことをいい、山へ籠って厳しい修行を行うことにより悟りを得ることを目的に行われてきました。
この羽黒修験道では、羽黒山は現世の幸せを祈る現在の山、月山は死後の安楽と往生を祈る過去の山、湯殿山は生まれかわりを祈る未来の山といわれています。
これら三山を巡ることは、現在・過去・未来を巡る「生まれかわりの旅」として広まり、生きながらに新たな魂として生まれかわることができると信仰されています。
東京から新幹線と特急列車を乗り継ぎ約4時間、JR鶴岡駅からバスで約40分。
市街地を抜けると辺りには徐々に田園風景が広がってきました。
緑が美しい庄内平野と遠くにそびえる山々の景色に見とれていると、大きな赤い鳥居が立っているのが見えてきました。羽黒山大鳥居です。
平野に高くそびえ立つ大鳥居は、近づくほどにその大きさに圧倒されます。
さらに道を進んで行くとだんだん傾斜が高くなり、辺りには建物が増えてきました。
しばらく走行していると「宿坊」と書かれた看板がちらほら目につきます。とうとう宿坊街のはじまりです。
もう少し先を進むと、羽黒山正善院黄金堂が見えてきました。
羽黒山正善院黄金堂は、源頼朝が平泉の藤原氏との戦の勝利祈願の為に建立しました。
かつては羽黒山山頂の大金堂(現在の羽黒山三神合祭殿)に対し、麓の小金堂といい、三十三体の観音像が黄金に映えることから黄金堂と呼ばれるそうです。
羽黒山正善院黄金堂を過ぎると、さらに多くの宿坊が道の両脇に軒を連ねていました。
昔と変わらず多くの宿坊があるのは、今も変わらず参拝者を受け入れ、修験道を支えて続けていることがうかがえます。
続いて黄金堂から歩いて約15分。
着いた先は、羽黒山の入り口である「隋神門」(ずいしんもん)です。
隋神門の左右には、悪霊の侵入を防ぐ門番の豊石窓神(とよいわまどのかみ)と櫛石窓神(くしいわまどのかみ)が鎮座しています。
周りを緑に囲まれた中に建つ朱塗りの隋神門は、まさにこの羽黒山を静かに見守っているような、そんな気持ちになります。
隋神門をくぐり山頂まで続く表参道に一歩足を踏み入れると、目の前には緑が広がり、木々の間からは気持ちいい風が吹いてきました。
その静けさの中に、どこか神聖な空気が漂います。
隋神門をくぐるとまず「継子坂(ままこざか)」と呼ばれる、下にくだる短い石段があります。
坂の名前が興味深いですね。
昔から、山は神そのものであり神霊の宿る聖地、新たな生命をはぐくむ霊地と考えられてきました。
霊地である山に籠るということは、現世の自分を一度葬り、母の胎内に宿ることを意味するといいます。
この継子坂は、一度下にくだることで罪穢れを払い流して新しく生まれ変わり、原点に戻るという気持ちで通るのだといいます。
所在地 : 997-0211 山形県鶴岡市羽黒町手向字手向232
羽黒山の霊場の一つ 朱塗りの神橋と懸崖から流れ落ちる須賀の滝
継子坂を通りすぎると、参道の脇にはいくつもの神社が並んでありました。
これら石段の末社は、山頂までの間に全部で20もの数があるそうです。
「岩を砕き荒地を耕す神」「根を裂き荒地を耕す剣の神」「水をたくわえ洪水を防ぐ木の神」など、農耕に関わる神々を祀っており、昔からこの羽黒山が地域の人々を見守り続けてきたことがうかがえます。
これらの末社は順番通りに参拝するのが良いとされているそうです。
その先を進むとすぐに、祓川にかかる朱塗りの橋が見えてきました。これは「神橋(しんきょう)」といい、この橋を渡ると神域だといわれています。
昔は、出羽三山に参拝する人々は必ず祓川で身を清めたのだといいます。
神橋からは、身を清めるための神を祀る「祓川神社」(はらいがわじんじゃ)が見え、そしてその奥には「須賀の滝」(すがのたき)が流れ落ちます。
須賀の滝は、表参道の石段を築いた天宥(てんゆう)別当が月山より約8㎞の水路をひいて作ったものだといわれています。
滝や川の流れる水音が、その清らかさを一層増してくれているように感じます。
また、神橋を渡った先には「注連掛け桜(しめかけざくら)」と呼ばれる桜の木が1本植えられています。
なぜこのような名前なのかというと、祓川で身を清める際にこの桜の木に注連を掛けたことから、注連掛け桜と呼ばれているそうです。
かつての参拝者がどのような想いで祓川で身を清めたのかを想像しながら、この神橋を渡ってみてはいかがでしょうか。
所在地 : 997-0211 山形県鶴岡市羽黒町手向院主南72
ミシュラン2つ星に輝く美しさ 杉並木にひっそりと佇む羽黒山五重塔
隋神門から約10分歩いたところに、ひときわ大きい杉があります。
この巨木は「爺杉」(じじすぎ)と呼ばれています。
なんと樹齢1000年以上ともいわれる杉の老木で、羽黒山中において最大にして最古の杉と言われています。
以前は近くに「婆杉」もあったといいますが、そちらは1902年の暴風で倒れてしまったそうです。
爺杉の根周りは10.5mもあり、その太さからは相当長い年月をかけて成長してきたことが伺えます。
そして爺杉の向こう、木々の間には、東北地方唯一の国宝である五重塔が見えます。
高くそびえ立つ杉並木の中にひっそりと佇むその姿は、何とも言えない幻想的な雰囲気を醸し出しています。
創建は平将門だと伝えられており、現在の塔は南北朝時代1372年に再建、1608年に出羽山形藩主の最上義光が修復したものだといいます。
屋根は、日本古来から伝わる伝統的な杮葺き(こけらぶき)でつくられています。
また、色を塗らずに木の地肌そのままの材木を使って建物を建てる素木(しらき)造りという手法でつくられているそうです。
少し離れたところから引いて見ても間近で見ても、材木の組み方や均整のとれたその美しい姿に思わず見とれてしまいます。
華美な装飾を施さずとも、材木が持つ本来の良さだけでここまで美しい建築をつくりあげたということは、当時の職人の技術の高さがうかがえますね。
この羽黒山五重塔は世界的にも認められており、ミシュラン・グリーン・ジャポン2つ星にも輝いています。
是非一度、この美しさを肌で感じに訪れてみてはいかがでしょうか。
所在地 : 997-0211 山形県鶴岡市羽黒町手向7
羽黒山の入り口、隋神門~羽黒山五重塔までご紹介しましたがいかがでしたか?
古くより信仰をあつめてきた羽黒山には、今も多くの人々が訪れます。
是非一度、羽黒山の歴史を触れに訪れてみてはいかがでしょうか。