徳川家と前田家の架け橋 珠姫の生涯と彼女の守った城下町金沢を巡る
石川県金沢は最盛期、京都・江戸に次ぐ都市として繁栄しました。
国の名勝、兼六園のおかげで戦火を免れたこの地には数多くの城下の跡が今もなお、残されています。
今回はそんな金沢を守る立役者となった一人の女性の生涯を辿りながら、美しき城下を紹介します。
この記事の目次
日本女性の鏡と言われる珠姫の寺 金沢に愛される四万坪の「天徳院」
金沢駅から北鉄バス「湯涌温泉行」に乗車して約15分、天徳院前で下車すれば、知る人ぞ知る加賀藩ゆかりの名寺、「天徳院」に到着です。
天徳院は1623年、三代藩主前田利常が正室珠姫のために創建した、四万坪の敷地を誇る寺院。
玉姫はただ一人、14歳の若さで江戸から遠く離れた金沢へきた徳川家康の愛娘。徳川家と前田家の架け橋として躍進されました。
三男五女を立派に育て上げ、24歳で生涯を閉じたその人生はまさに波乱万丈です。
中心地から少し外れた学生街にあるこのお寺は私が見てきた金沢の寺院の中ではおそらく最も規模が大きく、そして神聖な空気が漂います。
本殿に入る前にまず目を奪われるのは大きく、そして威厳のある山門です。この山門は創建当時から唯一残った貫禄があり、黄壁様式が珍しい。
そんな山門へと延びる一本の石畳は右側が「羅漢の道」、左側が「菩薩の道」と呼ばれます。
当時の女性の生活は今よりもずっと制約も多く、生きづらい世の中だったように思います。
そんな中でも輝き続けた珠姫の強く、しかし儚い魂が宿る寺院はどこか大気の重みが違いました。
ぜひ天徳院を訪ねる際には、入口からその空気感を堪能ください。
寺内は宝物がいっぱい!からくり人形と珠姫の生涯に想いを馳せる金沢旅
山門をくぐった先の手入れの行き届いた美しき木々は美しく、左右を取り囲む寺の回廊は渡るだけでも十分に楽しめます。
本殿の前まで行くと、窓や扉、至る所に家紋が見つかり、改めて加賀藩前田家にとって縁深い、大切な寺院であったことが伝わってきます。
右の回廊を渡って本殿内へ向かう途中にも歴史的建築が数多く見つかりました。
上を見上げれば、大きな霊鐘。加賀藩が時刻制度を改革した際に作られた寺鐘の二口のうちの一口で、この梵鐘の響きを聞くも者はすべて苦悩を免れると言われます。
横を見れば先ほどの美しき緑と、太陽光の差し込む暗い回廊が情緒を感じさせます。
本殿内には天徳院が守り受け継ぐ、加賀藩ゆかりの貴重な宝物が展示されていました。
珠姫の御遺骨が祀られるのはこの天徳院と高野山の二寺のみだそうです。
天徳院に来たからには見逃せない、一番のポイントはからくり人形「珠姫・天徳院物語」。
金沢の伝統工芸でもあるからくり人形が、琴や三味線などの風流ある音楽合わせて物語を創り出します。
心に染みわたるような語りを聞くと、珠姫の一生が鮮明に浮かび上がりました。
金沢城下の穴場スポット、こちらで加賀百万石の危機を救った珠姫の物語に触れてみてはいかがでしょうか。
珠姫が救った金沢城下 200寺が集まる町と道には見どころ満載
加賀百万石として繁栄した金沢、城下町を守るのも並大抵のことでは務まりませんでした。
平和を第一に考えていた藩主前田家は代々、特に市民と城を守るためのまち創りに力を入れました。
そんな経緯もあってか、この金沢には60以上の寺が密集する「寺の町」が三か所、遠い昔から市民の生活を守り続けています。
金沢に流れる三筋の川に沿って、城の鬼門を封じるために出来た寺々の町並みは力強く、たくましいです。
金沢を守る「寺町」「小立野」「卯辰山」、三つの寺町それぞれには個性が光ります。
駅から約15分歩いて、「卯辰山寺院群」は観光名所ひがし茶屋街の近辺に集まる寺院山。
勾配の多い細道はさながら迷宮で、自身のこころの迷いを表すかのようです。
「寺町寺院群」は最大規模を誇る寺町で、金沢三大茶屋街の一つ、にし茶屋街のそばにあります。
市民に根付く、親しみやすい寺院が住宅街に混在する様は今を生きる金沢の歴史の姿を見せてくれました。
訪ねる際には北鉄バスを使い、「香林坊」で下車。
金沢一の繁華街「片町」を散策し、犀川大橋を越え10分程の街歩きを楽しみながら向かうのがお勧めです。
そして今回の天徳院もある「小立野寺院群」は目を見張るような壮大な寺院が軒を連ね、広い石畳が目立ちます。
石垣の博物館とも言われる金沢城を作る際に、石を運ぶために作られた広い道からこの辺りは「石引」とも呼ばれるようです。
湯涌温泉行のバスに乗り「天徳院前」で下車、駅から30分程で到着です。
兼六園や武家屋敷をご覧になった方は、金沢の道や寺々にも注目してみるとさらに深く、城下の足跡を辿れることでしょう。
珠姫様の生涯を辿る旅はいかがでしたでしょうか。
歴史とは、人の生きた痕跡がカタチや文化となって残るもの。
珠姫様と前田利常の目指した世界は、今もなおこの金沢には息づいているように感じられました。
ぜひ、金沢でのお寺巡りをされる際には珠姫様のことも頭に思い浮かべながらお楽しみくださいね。