HISTRIP(ヒストリップ)|歴史的建造物に泊まろう

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平安の世から古典と文学で語られてきた鞍馬と貴船の地を読み解く

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    鞍馬(くらま)寺と貴船(きふね)神社は霊験あらたかとされ,平安京ができて以来多くの人々が参拝に訪れました。
    訪れた人々は感じた思いを歌や日記に記しました。
    時に恋焦がれる思いを、時に美しさ表すために。この思いを時代を超え感じる旅をしてみませんか?

     

     

     

    1200年以上人々に愛され伝えられてきた鞍馬を古典からたどる

     

     

     

    <01_kurama山門>
    『源平盛衰記』(げんぺいせいすいき)に貴賤の上下を問わず詣でる人の多かったと記されている鞍馬寺。

     

     

     

    <02_kurama本殿>

     
    古来から平安京の北に位置し霊験あらたかなることから多くの人が訪れ、多くの物に記されることとなりました。
    菅原孝標女(ふじはらたかすえおんな)が平安時代中期に記した『更級日写真記(さらしなにっき)』には
    「春ごろ、鞍馬にこもりたり。山際霞みわたりのどやかなるに、

    …出づる道は花もみな散りはてにければなにともなきを、

    十月ばかりに詣うづるに、道のほど山のけしき、このころは、いみじうぞまさるものなりける」
    と記されています。

     

     

     

    <03_kurama山並み>

     

     

     

    「春ごろに鞍馬に詣でて籠った。山際は霞み渡りのどかな様子で、

    …山を出る道は花も全て散り果てていたので何の見どころもなかったが、

    10月に再び詣でると、道の途中の山の景色がこの頃はそれは素晴らしいことだった」

    という意味です。
    鞍馬の桜や紅葉の綺麗さを指していたのではないでしょうか。

     

     

    <04_kurama植物 >

     

     
    また、菅原孝標女の愛読書であった紫式部の書いた『』でも鞍馬寺が光源氏と紫の上との出会いの場所として描かれています。

     

     

     

    <05_kurama参道>
    他に、清少納言の『枕草子』にも由岐(ゆき)神社から本殿金堂までの九十九折参道を
    「近うて遠きもの、遠くて近きもの」の近くて遠いものの例えとして書いています。
    今も昔も変わらず参道を歩いて行くからこその鞍馬寺の感動をぜひ味わってみてください。体感をもう少し追記しましょう!

    鞍馬寺 所在地 : 京都市 左京区鞍馬本町1074
    鞍馬寺公式HP : http://www.kuramadera.or.jp/

     

     

     

    鞍馬と義経への思いを詠んだ与謝野晶子と与謝野鉄幹の俳句の数々

     
    鞍馬寺館長であった信楽香雲が与謝野晶子の弟子であったことから、与謝野晶子、与謝野鉄幹夫妻はたびたび鞍馬を訪れました。
    最初にご紹介するのは鞍馬寺本堂から鞍馬山を5分ほど登った先の鞍馬山霊宝殿横に歌碑としてある2句です。

     
    <06_kurama歌碑>

     

     

     

    <07_kurama晶子歌碑>

     
    右側は「何となく君にまたるるここちしていでし花野の夕月夜かな」与謝野晶子、
    「なんとなく君が待っているような気がして夕月が出ている夜の花の咲く野原に出てきてしまったことだ」という幻想的な意味の歌です。

     

     

     

    <08_kurama鉄幹歌碑>

     
    左側は「遮那王が背くらべ石を山に見てわがこころなほ明日を待つかな」与謝野鉄幹。
    鉄幹のようにこの鞍馬の地で幼少を過ごした源義経に思いをはせた句を2人は多く読みました。
    他には、与謝野晶子「山の著莪咲きも乱れず清く立つ牛若と言ふ少年のごと」とシャガの花と義経の立つ姿の対比を映し出す歌や

     

     

    <09_kurama義経太刀>

     
    与謝野鉄幹「木太刀もて岩を斬りたる遮那王のやと言う声に似る歌無きか」と武芸に励む義経を読んだ句となっています。

     

     

     

    <10_kurama道>

     
    鞍馬寺を歩いていく中で義経のたどった道を与謝野夫妻のように想像を膨らませてみてはいかがですか。
    所在地 : 京都府京都市左京区鞍馬町

     

    1600年以上人々の願いを叶え続け信仰を集めた貴船を古典でたどる

     

     

    <11_kurama本殿>

     
    貴船駅から20分程度歩いた先の貴船神社は元々水を司る神社です。
    そのため田畑が潤うようにと願った歌が『新古今和歌集』に載る賀茂幸平(かもゆきひら)の歌として

    「おほみ田のうるほうばかりせきかけてゐせきに落とせ川上の神」

    とあります。
    この歌は貴船神社の2月9日の雨乞祭りの時に唱えられる秘歌になっているとのことです。
    また水については、貴船神社の横を流れる清流貴船川に関する歌も多く残されています。

     

     

    <写真13_alt:alt貴船川2>

     

     
    『末木和歌集(すえきわかしゅう)』藤原俊成の

    「貴船川玉散る瀬々の岩浪に氷を砕く秋の夜の月」
    貴船川の岩浪に寄せては散る波と、その波が氷を砕くと見えてくる秋の月という美しい情景を詠んだ歌があります。

     
    一方で『千載和歌集(せんさいわかしゅう)』平實重(たいらのかねしげ)では出世で悩んでいたおり、貴船神社に願ったらすぐに出世したことから
    落ち込んでおらずに、とにかく貴船の神様に願っていれば早く出世したのにという事を詠んだ
    「今までになどしづらむ貴船川かばかり早き神をたのむに」
    という面白い歌もあります。

     

     

     

    <写真14_alt:alt結社>

     

     

     

    貴船神社が恋愛成就の神社とされるようになったはじまりは和泉式部と言われており和泉式部は夫との関係に悩み参拝した際に

    「もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂かとぞ見る」

    と詠んでおり、その沢も思ひ側として残っています。

     

     

    <15_kurama思ひ側>

     
    何かに悩んだ昔の人々と同じように時貴船神社を頼ってみてはいかがでしょうか。
    私も貴船神社では力をもらうことができた気がします。

    貴船神社 所在地 :   京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
    貴船神社公式HP : http://kifunejinja.jp/

     

     
    ここで取り上げている歌や俳句はごく一部です。
    道中にはいくつもの歌碑が残っています。
    人々の足跡や思いを詠った歌や句をたどりながら山や川、鞍馬寺や貴船神社をいつもとは違う見方をする旅をしてみてはいかがでしょうか。