HISTRIP(ヒストリップ)|歴史的建造物に泊まろう

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信仰から見る世界遺産「石見銀山」銀山を支えた人々の信仰文化とは

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    世界遺産に登録されている島根県大田市の石見銀山。美しい歴史的景観のなかには、銀山で生き、銀に関わった人々の心を映す寺社仏閣があります。
    銀が採掘され、精錬され、海を渡ってゆく流れを追いながら、人々の信仰のありかたを巡ってみましょう。

     

     

     

     

    五百羅漢と羅漢寺「もう一度あの人に会いたい」切なる願いの結晶

     

     

     

    JR大田市駅から大森までバスで約30分、大森のバス停から徒歩2分ほどで五百羅漢、羅漢寺に到着します。

     

     

     

    〈01_odashi五百羅漢〉

     

     


    五百羅漢(ごひゃくらかん)が石見銀山、大森町三百水の地に完成したのは1766年の江戸時代のことです。
    観世音寺の月海上人をはじめ、さまざまな人々の思いが繋がり、実に25年の歳月をかけてつくられたました。
    薄暗く太陽の光を浴びず、鉱物を吸いながら働く
    銀山の鉱夫の平均寿命は30歳。給料は良かったようですが、みな家族を残して亡くなっていきました。
    そんな銀山で生きた先祖たちの供養と、鉱夫たちの安全を願い、五百羅漢は作られました。

     


    〈02_odashi五百羅漢〉

     

     

     

    羅漢寺(らかんじ)は五百羅漢の後に建立された真言宗のお寺です。美しい不動明王像と愛染明王像が安置されています。
    羅漢寺の川を挟んだ向かいに五百羅漢はあります。
    この川はあの世ととこの世を分かつ三途の川であるとご住職からうかがいました。

     

     


    その昔、五百羅漢と羅漢寺があるここが銀山町の果てでした。これより先は山で、代官所で裁かれた罪人の遺体が置かれる場所があり、その遺体は川をの中を引きずられて山まで運ばれたそうです。

     

     


    あの世とこの世を三途の川をまたいで繋ぐのは石で組まれた太鼓橋です。太鼓橋は、石見銀山の石工技術をよく表しています。

     

     

     


    〈04_odashi五百羅漢〉

     

     

     

     

    〈05_gohyakurakan五百羅漢〉

     

     


    五百羅漢はシンメトリーに配置された三つの石窟(せっくつ)からなっており、中央の石窟には石造の釈迦三尊が安置されています。
    このお釈迦様には逸話があって、4月までに余裕をもって終わるはずだった修繕工事がさまざまなアクシデントで大幅にずれ込み、結局完成したのは4月8日。

     

     

    お釈迦様の誕生日でした。

     

     

    「誕生日に工事を終わらせるなんて、お釈迦様のご意思だったのかな」とご住職は仰っていました。魂のある釈迦像、と呼ばれています。

     

     


    五百羅漢が安置されているのは左右の石窟です。向かって左に250体、右に251体の羅漢が安置されています。

     

     

     

    笑ったり、泣いたり、怒ったり、ひとつとして同じ羅漢像はありませんでした。ここにくれば「鉱山によって亡くなった親や子供や、大切な人にもう一度会える。」銀山の人々の心のよりどころでした。

     

     

     

    拝観料は500円です。羅漢寺の中も、石窟の中も、撮影やスケッチは禁止されています。自分の目に焼き付けるというのも素敵ではないでしょうか。

     

     

     

    所在地 : 島根県大田市大森町イ804
    公式URL : 羅漢寺

     

     

     

     

    「山神さん」こと大田市銀山町の佐毘売山神社と銀山に生きた人々

     

     

     

     

     

    〈00_sahimeyama〉

     

     

    世界遺産石見銀山の端、龍源寺間歩出口すぐに、佐毘売山神社(さひめやまじんじゃ)はありました。

     

     


    JR大田市駅から大森までバスで約30分、大森のバス停から徒歩40分ほどかかります。
    大森のバス停の横にレンタサイクルショップがあるので、そこで電動自転車を借りるか、ベロタクシーというタイのトゥクトゥクのような乗り物に乗るのをおすすめします。

     

     


    祀られているのは鉱山の守り神、精錬の神である金山彦命で、地元の方からは「山神さん」として親しまれています。

     

     


    1434年頃、室町幕府将軍足利義教の命により、当時石見銀山を治めていた大内氏が益田から勧請しました。歴代の石見銀山の支配者、大内氏をはじめとして、尼子氏、毛利氏も崇拝し保護したと伝えられています。

     

     

     

    〈01_sahimayama佐毘売山神社〉

     

     

    長い階段をえっちらおっちら上ると、狛犬と木製の鳥居、お社が見えてきます。

     

     

     

    〈02_sahimayama佐毘売山神社〉

     

     

     

    〈03_sahimayama佐毘売山神社〉

     

     

    苔むした狛犬と深い緑が、神社の歴史と神秘的な雰囲気を今に伝えています。拝殿の二重になっている屋根は重曹屋根といって、天領特有のもの。

     

     

     

     

    〈05_sahimayama佐毘売山神社〉

     

     

     

    神社を挟んで石垣が広がっています。向かって左が出土谷(だしつちだに)、右が昆布山谷(こぶやまだに)と呼ばれ、多くの住居跡や間歩の入り口があります。出土谷からは2001年に重さ6kgの灰吹き銀が初めて出土しました。

     

     


    江戸時代、旧暦正月の11日には、代官も役人も山師も鉱夫も、みな正装して鉱山の大盛況を祈願していたようです。また、毎月3日間盛山祈願が行われていました。銀山の人々を繋ぐ、大切な場所、それが佐毘売山神社です。

     

     

     

     


    佐毘売山神社 所在地 :島根県大田市大森町

     

     

     

     

    銀の道の終着点 大田市温泉街ど真ん中の祈りのかたち 龍御前神社

     

     

     

     

    島根県温泉津は海沿いのまちであり、石見銀山で採掘され、精錬された銀は温泉津の港、沖泊(おきどまり)から世界へ輸出されました。
    銀山のために働いた人はなにも銀山町の人々だけではありません。港町の人々や船乗りたちも石見銀山には大きく関係しています。
    海に生きた人々から信仰されていたのが、龍御前神社(たつのごぜんじんじゃ)です。

     

     


    JR温泉津駅から車で約2分、徒歩約15分で到着します。

     

     

     

     

    〈01_tatsunogozen龍御前神社〉

     

     

     

    〈08_tatsunogozen龍御前神社〉

     


    温泉津は重要伝統的建造物保存地区に指定された温泉街として有名ですが、重要伝統的建造物保存地区の真ん中に龍御前神社はあります。

     

     


    創建は、1532年と伝えられており、海上安全、漁業・温泉医療の守護神として出雲系と九州系の神々が合わせて8神祀られています。

     


    拝殿の背後、小高い断崖の上にある旧本殿がとぐろを巻いた龍の形をした巨石の下に建立されていることから、もともとは巨石そのものが磐座(神が降臨する場所)として信仰されていたと考えらています。龍御前という名前の由来もこの巨石です。

     

     


    江戸時代の航海は、風任せです。遭難することもしばしばだったので、海上安全を祈願して各々の船の絵がこの神社には奉納されました。
    旧本殿前にある石灯篭も港町で生活していた益田家、前田家から寄進されたものです。

     

     

     

    〈02_tatsunogozen龍御前神社〉

     

     


    旧本殿までの道は拝殿の右わき奥に入り口があります。

     

     

     

    〈13_odashi龍御前神社〉

     


    急な石階段があります。苔むしていて滑るので注意です。

     

     

     


    〈14_odashi龍御前神社〉

     

     

    結構登りますが、手すりがしかっりしているので安心です。緑のトンネルをてくてく登ります。

     

     


    〈06_tatsunogozen龍御前神社〉

     

     

     

    旧本殿に到着です!巨石がえぐれたところに建立されているので、まるで石の龍に守られているようでした。

     

     

     

    〈15_odashi龍御前神社〉

     


    旧本殿からは温泉津のまちが一望できます。奥のほうには海が見えます。山の緑と海と空の青、石州瓦の赤が美しい穏やかなまちです。

    また、秋祭りには拝殿を開放して伝統芸能・石見神楽こ公演があります!!きらびやかな舞衣とお囃子で表現される神話の世界は圧巻です。

     

     

     

    所在地 : 島根県大田市温泉津町温泉津ロ156

     

     

     

     

    石見銀山の信仰を巡る旅はいかがでしたか。石見銀山の繁栄を支えた人々の心のよりどころは信仰だったのではないでしょうか
    亡き人をしのんで、銀山繁栄のために、そして銀を運ぶために、信仰の形はさまざまですが、そこにあるのはどれも銀山に生きた人々の思いです。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。